育休明けに前と同じ職種へ戻れる人と、戻れない人の分かれ目

「育休が明けたら、また前と同じ仕事に戻れますよね」

そう聞かれるたびに、私は少しだけ言葉を選びます。

はじめまして、森下かなえと申します。
美容専門学校を出てエステサロンで7年間働き、後半の3年は店長として新人教育とシフト作りを担当していました。

第一子の出産で一度現場を離れ、2年のブランクを経て、美容業界に特化した人材紹介会社へ移りました。
キャリアアドバイザーとして6年間、800人以上の方の転職相談を受けています。

その中で本当によく聞くのが、冒頭の質問です。
そして残念ながら、答えは「必ず戻れるとは限りません」になります。

ただし、戻れるかどうかは運だけで決まるわけでもありません。
制度の上での線引きははっきりしていますし、実際に希望どおり復帰した方には、共通してやっていたことがあります。

この記事では、法律と国の指針がどこまでを保障しているのかを整理したうえで、復帰前にできる準備を具体的にお伝えします。

「原職に戻れる」は、法律で決まっているわけではありません

まず、多くの方が誤解している部分から片づけます。

育児・介護休業法には、「育休明けは元の仕事に戻さなければならない」という条文はありません。

法律が事業主に求めているのは、育休後の就業が円滑に行われるよう、配置その他の雇用管理について必要な措置を講じるよう努めること。
つまり努力義務です。

そのうえで、厚生労働省の事業主が講ずべき措置に関する指針にこう書かれています。

育児休業及び介護休業後においては、原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮すること。

「配慮すること」です。
「復帰させなければならない」ではありません。

ここが、会社によって対応が割れる制度上の理由です。
原職復帰に力を入れている会社も、部署が変わるのが当たり前になっている会社も、どちらも直ちに違法とは言えない。
そういう構造になっています。

ただし、これは「会社は何をしてもいい」という意味ではありません。
育休を取ったことを理由とする不利益な取扱いは、法律で明確に禁止されています。
異動が「育休を取ったから」に紐づいていれば、そこは別の話になります。

「原職相当職」と認められる3つの条件

指針にある「原職相当職」とは何を指すのか。

厚生労働省が都道府県労働局あてに出している施行通達に、判断のものさしが示されています。
一般的に、次の3つすべてに当てはまる場合に「原職相当職」と評価されるとされています。

条件内容
① 職制上の地位休業後の職制上の地位が、休業前より下回っていないこと
② 職務内容休業前と休業後とで、職務内容が異なっていないこと
③ 勤務場所休業前と休業後とで、勤務する事業所が同一であること

この3つは、現場に立つ仕事の方ほど引っかかりやすい項目です。

エステティシャンとして施術をしていた方が、復帰後に受付や事務に回されれば②に触れます。
A店で働いていた方がB店に配属されれば③に触れます。

「職種は同じだけど店舗が変わっただけ」も、このものさしの上では原職相当職から外れることになります。

分かれ目は「その異動を、育休と関係なく説明できるか」

では、原職相当職から外れた配置は全部アウトなのか。
そうではありません。ここが一番大事なところです。

同じ施行通達に、こう書かれています。
法的に保障される復職先の範囲は「原職又は原職相当職」よりも広く、別の事業所や別の職務への復職であっても、通常の人事異動のルールから十分に説明できるものであれば、禁止されている「不利益な配置の変更」には当たらない。

つまり分かれ目は、その異動が育休と切り離して説明できるかどうかです。

  • 毎年この時期に全店で異動があり、自分も過去に同じ形で異動している
  • 育休中に店舗が統廃合され、そもそも元のポジションが存在しない
  • 会社の内規や、これまでの人事異動の慣行で説明がつく

こうした事情があれば、元の職場に戻れなくても違法とは言えません。
なお「通常の人事異動のルール」は、書面になっている必要はなく、その事業所で行われてきた人事異動の慣行も含むとされています。

一方で、国が「これは線を越えている可能性が高い」と名指ししているケースもあります。

短時間勤務を申し出た人を、労使協定でその制度を使えないことにしている業務へ転換させることです。
これは通達上、不利益な配置の変更に該当する可能性が高いと明記されています。

時短を申し出た途端に、時短では回らない持ち場へ動かされた。
そう感じたなら、それは我慢すべき人事異動ではないかもしれません。

同じ指針には、業務に従事させない、もっぱら雑務に従事させるといった行為は「就業環境を害すること」に当たる、とも書かれています。
席はあるのに仕事が来ない状態も、制度上は問題として扱われる余地があります。

数字で見る、育休明けに実際に起きていること

感覚の話だけでは判断しづらいので、公的な調査の数字も見ておきます。

厚生労働省が2026年7月に公表した令和7年度雇用均等基本調査から、育休と復職に関する数字を抜き出しました。

項目数値
女性の育児休業取得率88.3%
育休を終えた女性のうち復職した人の割合92.1%
同じく退職した人の割合7.9%
3歳までの子のための短時間勤務制度がある事業所74.0%

復職率92.1%という数字は、裏を返せば、育休を終えた女性の12人から13人に1人は職場に戻らずに辞めているということです。
前回調査の93.2%からわずかに下がっています。

そして短時間勤務制度。
3歳未満の子を育てる社員への時短措置は事業主の義務であるにもかかわらず、制度がある事業所は74.0%にとどまります。
4分の1の事業所には、まだ制度そのものがありません。

もうひとつ、内閣府男女共同参画局が2025年1月に実施した調査があります。
育休を取得した20代から40代の正社員2,853人にインターネットで聞いたもので、育休前と復帰直後を比べた結果です。

業務量も業務の難易度も、「変わらない」が最多でした。
業務量で68.9%、難易度で74.0%です。

数字だけ見れば、多くの人はそれほど大きく変わっていないことになります。
ただし、その変化への満足度には男女で開きがありました。
満足と答えたのは女性46.0%に対し、男性67.6%です。

同じ「変わらない」でも、受け止め方は同じではないということだと思います。
時短で働く時間が減ったのに業務量が据え置きなら、体感としては増えたのと変わりません。

戻れた人が、復帰の前にやっていること

ここからは実務の話です。
私が相談を受けてきた中で、希望どおりの職種に戻れた方には、はっきりした共通点がありました。

復帰の話を、会社任せにしていないことです。

育休中に一度、会社と話す機会をつくる

2025年10月1日から、事業主には新しい義務が加わりました。

妊娠や出産の申出をしたとき、そして子どもが3歳になる前の適切な時期に、勤務時間帯や勤務地、両立支援制度をどれくらいの期間使いたいかといった本人の意向を聴き取り、その内容に配慮することが義務になっています。

ここで押さえておきたいのは、義務なのは上記のタイミングであって、「復職するとき」の面談は指針の上で望ましいとされているにとどまる点です。

だから、復職前の面談が丁寧にある会社と、辞令一枚で終わる会社に分かれます。
面談がないなら、自分から申し入れて構いません。

タイミングは、復帰の2か月から3か月前がおすすめです。
シフトや人員の配置は、その頃には固まり始めています。
決まってから言っても動かせません。

「できないこと」ではなく「できること」から話す

伝え方も結果を左右します。

多くの方は、遠慮から「できないこと」を先に並べてしまいます。
残業ができない、土日が難しい、急な休みが出るかもしれない。

すべて事実なのですが、これだけを聞いた上司の頭には「制約の多い人」という枠しか残りません。
そこから配置を考えれば、負荷の軽い持ち場に置こうという判断になりがちです。

順番を逆にしてください。

施術や接客など、現場に立つ職種ならこんな形です。

復帰後もエステティシャンとして現場に戻りたいと考えています。平日は9時から16時まで、フルで施術に入れます。土曜日も月2回であれば夕方まで対応できます。閉店番だけは保育園のお迎えの都合で難しいので、そこを他の方と分担させていただけないでしょうか。

職種はそのままに、働く時間だけ調整したい場合はこうです。

担当していた業務は続けたいと思っています。当面は6時間勤務でお願いしたいのですが、下期からはフルタイムに戻す前提で考えています。時期の目安を今のうちに共有させてください。

「できること」を先に、「調整したいこと」を具体的に一点だけ。
この形にすると、話が配置の相談として進みます。

復帰前に確認しておきたいこと

面談の前に、次の項目を整理しておくと話が早く済みます。

  • 復帰後の職種と、勤務する事業所はどこになるか
  • 短時間勤務は何時間で、いつまで使えるか
  • 残業免除や子の看護等休暇は、どの手続きで申請するのか
  • 給与や手当が、時短によってどう変わるか
  • 元の持ち場に戻れない場合、その理由は何か

最後の項目は、聞きにくいかもしれません。
それでも聞いておく価値があります。

理由が「今期は全店で異動があるから」なのか、「時短の人にはこの仕事は任せられないから」なのかで、意味がまったく違うからです。
前者は通常の人事異動として説明がつきますが、後者は先ほどの線引きに触れる可能性があります。

現場に立つ仕事は、確認する項目が少し違います

エステティシャン、美容師、看護職、販売職。
決まった場所に立って、決まった時間にお客様や患者さんと向き合う仕事は、育休明けの事情が事務職とは少し違います。

在宅勤務で調整するという手段が、そもそも使えません。
営業時間は夜まであり、閉店作業は誰かがやらなければならない。
シフトは他のスタッフとの兼ね合いで決まるので、自分の希望だけでは動かせません。

だからこそ、店舗や事業所が変わるかどうかを早めに確認してください。
前述のとおり、勤務する事業所が変われば「原職相当職」の3つ目の条件から外れます。
通勤時間が20分延びるだけで、お迎えが間に合わなくなることもあります。

技術のブランクについても、相談ではよく話題になります。
ここは正直にお伝えすると、半年から1年程度離れた方が「まったく元に戻らなかった」というケースを、私はほとんど見ていません。
手は思ったより覚えています。戻るまでの数週間が不安なだけです。

そして業界側にも、この数年で変化が出てきました。

エステ大手のたかの友梨ビューティクリニックを運営する不二ビューティは、2025年8月、一度退職した人を再び迎えるための仕組みを導入したと発表しています。
結婚、出産、育児、介護といったライフステージの変化でやむを得ず辞めた人に対して、時間限定や期間限定といった働き方を提案していくという内容です。
この取り組みの背景については、たかの友梨が元社員の再雇用に力を入れている理由をまとめた記事が分かりやすく整理しています。

一度離れたら終わり、という前提が業界全体で少しずつ崩れてきている。
そう感じています。

それでも折り合わないときは

話し合っても納得のいく説明がなく、明らかに不利益だと感じる配置になった場合。
社内で抱え込む必要はありません。

各都道府県の労働局に置かれている雇用環境・均等部(室)が、育児休業に関する労働者と会社のトラブルについて相談を受け付けています。
局長による助言、指導、勧告のほか、紛争調整委員会による調停という手続きもあります。

窓口や制度の詳細は、厚生労働省の職場でのトラブル解決の援助を求める方へにまとまっています。

なお、援助を求めたことや調停を申請したことを理由に、会社が不利益な扱いをすることは法律で禁止されています。
相談したこと自体で不利になることはありません。

まとめ

育休明けに前と同じ職種へ戻れるかどうか。
その分かれ目を、あらためて整理します。

  • 原職復帰は法律上の義務ではなく、国の指針が求める「配慮」にとどまる
  • 「原職相当職」は、地位・職務内容・勤務する事業所の3つで判断される
  • 別の職務や事業所への復帰でも、通常の人事異動のルールで説明できれば違法ではない
  • 時短を申し出た人を、時短が使えない業務へ移すことは不利益な配置の変更に当たる可能性が高い
  • 復帰の2か月から3か月前に、「できること」から自分の希望を伝えておく

制度は、知っている人だけが使えます。
そして配置は、希望を言葉にした人から順に検討されます。

私自身、復帰前に何をどう伝えればいいのか分からないまま、ただ不安だった時期があります。
あのとき誰かに教えてほしかったことを、この記事に書きました。

戻る場所は、待っているだけでは決まりません。
一本の面談の申し入れから、変えられることは思っているより多いはずです。